学長からのメッセージ
高田短期大学の伝統と教育 学長 清水谷 正尊
高田短期大学は、三重県津市の寺内町一身田(いっしんでん)を形成した、親鸞聖人(しんらんしょうにん)を宗祖とする真宗高田派本山専修寺(せんじゅじ)を母体とする短期大学です。その歴史は、寛保元年(1741)に専修寺第17世円猷上人(えんゆうしょうにん)が、本山の学寮で仏教の講義をされたことに始まります。以来、約280年、本学苑は三重県で最も古い歴史をもつ学校です。
日本における教育は、その大綱が「教育基本法」に定められています。「教育基本法」は平成18年12月に公布・施行された現行の法にも、昭和22年に発布・施行された旧法にも、その第1条に、教育の目的は「人格の完成」であると述べられています。では「人格の完成」とはいったいどのようなことをあらわしているのでしょうか。旧「教育基本法」制定の推進者であった元文部大臣で法学者の田中耕太郎氏がその著『教育基本法の理論』の中で、「教育的立場における"人格の完成"は、それ自体として不完全で、宗教的意味における一段階・一過程である」と述べているとおり、「人格の完成」とは宗教的概念であり、宗教的絶対価値をあらわす言葉であって、国公立の学校においてはその完成態を示すことは困難です。
しかし仏教系の私学である本学は、"ブッダ"を「完成された人格」として仰ぎ、目標として、教育の直道(じきどう)を迷いなく歩むことができます。そこで本学は、「仏教精神に基づく人間形成」を建学の精神とし、「『やわらか心』の社会人の育成」を教育の理念に掲げています。「やわらか心」とは、人格の完成した人の心のあり方であり、自分のものさし(価値観)の特性を自らよく理解し、自我の硬い殻から出て他人のものさしを受け入れることができる、視野の広いおおらかな心のことです。それは、それぞれの個性に輝きを見出し、あらゆる人格を肯定して受容することのできる、真の「思いやりの心」だと言えるでしょう。学生一人ひとりの個性を理解し、それぞれの人格を尊重し、それぞれに輝かせる教育、それが「やわらか心」を理念とする本学の教育の真髄であると考えています。
この理念に基づき、時代・社会の急速な変化に自在に対応しながらも、決してその変化に流されて自己を見失ってしまうことのない確固たる人生観・価値観をもちつつ、少子化・子育て困難、超高齢化、そしてIT化が進行する現代社会から真に要請され、社会に貢献できる、高度な専門知識や技能・技術を備えた保育者・オフィスワーカー・介護福祉士を育成すべく、「子ども学科」と「キャリア育成学科(オフィスワークコース・介護福祉コース)」を設置して、日々教職員一丸となって教育に邁進しています。
また本学は、両学科・コースの教育機能を強化するとともに、本学がもつ知識や知恵を活用して一層地域に貢献できる短期大学を目指し、「地域連携施設」として「仏教教育研究センター」「育児文化研究センター」「キャリア研究センター」「介護福祉研究センター」を開設し、高田本山、三重県、津市や、地域の企業と連携して事業を進めているところです。平成27年1月には百五銀行・百五総合研究所と、12月には、三重こどもの城を運営されている、三重こどもわかもの育成財団と連携協定を締結し、また平成28年8月には津市と、一昨年11月には松阪市とさらに今年3月には鈴鹿市と包括的な連携協定を結ばせていただきました。今後ますます地域社会との連携を深めつつ、地域貢献事業を進めていきます。
昭和41年(1966)の開学以来本学を巣立たれた方はおおよそ1万名にも及びます。その皆さんの、地域におけるそれぞれの分野でのご活躍が本学の地域社会での高い評価となり、おかげさまで、本学の就職率は毎年、全体でほぼ100%の実績を誇っています。
今後も、この伝統を大切にしながら、「建学の精神」と、「教育理念」に基づき、「学位授与方針」に記した学修成果を確実に身につけた人材を育成し、地域社会に貢献できる短期大学を目指して歩みを進めていきます。
学生の皆さんには、大切な青年時代の一時期を伝統あるこの高田短期大学の学生として過ごし、確かな人間力と高度な専門知識や技能・技術を備えた、社会の要請に応えうる有為な人物へと育ってほしいと念願しています。